研究テーマ/RESEARCH_1
研究テーマとその分類
本ウエブサイトでは、指導教員のこれまでの所属大学である千葉大学、滋賀県立大学、東京都市大学の全ての研究室での成果を合わせて掲載しています。それらは大まかに言うと、環境心理や空間現象学からデザインを捉えなおす「デザイン科学系の研究」と、人の行動特性から建築計画を科学する「人間空間学系の研究」の2つに分類されます。下記のリストから、興味を引くものを見てみて下さい。

デザイン科学系の研究
生活に多様さを与える窓辺のサイズ
平成30年以降の「省エネ法改正」により、住宅の室内外仕上げにより高い断熱性能が求められるようになったが、発泡ウレタンなどを厚く吹き付けるので、壁の厚みが増すことになった。この性能をどんどん上げていくと、自ずと窓枠も深くなるため、いっそのこと、窓枠が一種の「心地よい居場所づくり」に寄与できないかと考えた。写真の建築作品事例では、振り分け梁(スラブの上下に振り分けて着けられた梁)の上端を、ちょうどベンチの高さになるよう設え、多様な、小さな居場所をこしらえた。本研究では、この窓枠の幅寸を決めるべく、実物大模型を作り、被験者所作実験を行った。
関連論文:池田綾子・高柳英明他、新たな「居場所」を形成しうる「窓辺」と所作の連関についての研究、日本建築学会関東支部研究報告集(84)、pp.573-576、2014.2(2014年2月、日本建築学会 第84回関東支部若手優秀研究報告賞受賞/AIJ 84th Kanto Branch Research and Study Award)
インテリアコーディネートと関係が深い「インスタ映え」
インテリアコーディネートの基礎知識として「カラースキームにおけるBMA比率」というものがあるが、これを詳しく説明すると、インテリア全体をB:ベースカラー、M:メインカラー、A:アクセントカラーに分け、{B : M : A}={75 : 25 : 5}の比率に近づければ、誰もが好ましく思うコーディネート結果になるのである。
一方、写真投稿型SNSなどでは、いわゆる「映える写真」がもてはやされているが、皆が「映えている」と認める写真(インテリア空間+手元で見せるメニューや飲み物を含めた撮影画像)及びその撮り方には、上記のカラースキームの安定比率が関係している事が分かった。またそれらに付随してツイート・リツイートされる印象や感想を分析することで、被写体空間のイメージスタイルに対する感性反応と、BMA比率を関連付けることもできる。この連関を用いることで、写真映えの効果が高いインテリアコーディネートの一般解が得られる。
信楽焼の廃材を活用したインテリアエレメント
信楽焼は大業も小物も、土の質感を活かした表情豊かな伝統工芸であるが、焼成過程で破損する等、廃材の活用方法に苦慮している。そこで本研究では、信楽焼の材料物性に着目し、その廃材の再利用と用途模索をすべく研究着手に至った。「たぬきの置物」等で親しまれている信楽焼は、1) 荒々しい土質、2) 耐衝撃性・耐水性に富み、3) 素材自体が赤茶けた色味を帯びている事などから、国内では水道管や水瓶などに使われてきた。近年、信楽焼の市場規模が縮小しており、伝統工芸の火を絶やすことなく、同時に廃材の利活用を進めるべく、本研究では、新たなインテリアエレメントを提案することとした。
「洗出し」仕上げとは、左官仕上の一種で、砕石や砂利などを骨材(種材)とし、モルタルにて下地に定着させる方法である。西欧では「ZEN STYLE」として現代的なデザインエレメントに取り入れる傾向がある。
生活にここちよい天井のかたち
これは、「空間の大小」と「居心地のよさ」に着目したデザイン研究である。吹抜け空間など天井が高い空間は、開放感と同時に楽しい気持ちを味あわせてくれる。一方、ロフトや天井が低い空間は、窮屈だけれども、何故か落ち着く。天井の高い・低いには、それぞれの魅力があるが、それらが同時に感じられる天井のデザインはないのかという問に答えを見つけるべく、ロジッドモデルを用いて定量化と心地よさの被験者評価を行った。
また本研究は、熟練した建築デザイナーが直感的に操る「天井を絞る」「天井に段差をつける」というデザイン行為に対し、各々のゾーンの気積比を「1 : 4」に近づけると最も効果的であることも併せて明らかにした。広いリビングルームを吹抜けにしたら、ダイニングやキッチンスペースは天井高を下げ、かつ気積はリビングの1/3が適切なバランスであるという事である。
多機能ミーティングテーブルを自作する
ゼミをもっと活発にしたい想いから、研究室のテーブルを学生メンバーが設計・製作した。「ワークトップに必要なものは何か」から話し合いを始め、人と人の距離感や、シェルフ・収納とのバランスを考慮しつつ、設計を進めた。このワークトップは、固定本体テーブルと、小さな可動式六角形テーブルの2つの要素から構成されており、可動側を動かし組み合わせることでミーティングの形態を変容させられる点にある。小グループ作業や、全体ミーティング、プレゼンなど、多様なゼミ・シチュエーションに対応可能。また「人間集合の寸法」「対人間距離」の取り方に重点をおき、活発で自然に意見交換・意思疎通ができるような環境を創り出した。
(社)日本インテリアプランナー協会・2016年度IPCコンペ展示作品
「あかり」コントロールで睡眠の質を高める
ベッドや寝具だけでなく、安眠効果を高めるインテリア要素として着目されているのが「寝付き前のひととき」を過ごす際の、照明の「明るさ」コントロール。この研究は、就寝前の照度低下時間の長短が、睡眠の深浅にどんな影響を与えているかの臨床実験を行ったものである。点灯初期の照度から、徐々に暗くしていく時間を60[分]とることで、就寝中の「覚醒時間の減少」と「深い睡眠の増加」が看取された。また、1) 通常の室内照明よりも照度が低い時、眠気を促す傾向が高いことと、2)睡眠導入時の活動を限定する経過時間として適切なことが深い睡眠につながったみる事ができる。
ダイニングを重視した「新LDK」発想
動画サイトやスマートフォンの普及に伴い、家庭での「テレビ離れ」が顕著だが、同時に、家族揃ってリビングや居間でくつろぐ事も少なくなったと実感される向きも多いのではないだろうか。一方ダイニングルームは、食卓としての機能以外にも、子供の勉強机代わりになっていたり、ちょっとした家事雑事のデスクも兼ねていたりと、リビングルーム以上にフレキシブルに、かつ多用されている。本研究は、そうした「新LDK」のあり方にフォーカスし、ダイニングルーム重視型の住宅プランニングに対する居住者意識調査を行った。
関連論文:目羅真弓・高柳英明:ダイニング重視型の家族団らん空間に関する研究、東京都市大学都市生活学部卒業研究、2018.3 (PDF)
昇降しやすい階段手摺のデザイン
この研究は、腰を痛めた人が大学構内の階段を昇る際「1段目」を特に辛そうにしていた様子を観察した本研究室修士の学生が始めたものであり、手摺の始まりの位置や形状と、1段目の段端との相対的な関係を整理することで、もっと昇りやすく出来ないかという解決意識から着手に至った。人間のシルエットを読み取る画像認識型のモーションキャプチャを用い、被験者の腕・肩・腰骨・膝などの動きをデジタイズし、重心位置のぶれと挙動から、最も負担の少ない結果をきたす手摺形状を特定した。階段の蹴上げ(けあげ)寸法や、勾配の適正値などは多く研究されているが、日頃の観察を元にし、手摺の形から昇降負荷を科学した、本研究室ならではのテーマだと言える。
「窓には疲労回復性能があるか?」研究
近年では窓サッシの断熱・密閉性能に目覚ましい向上が見て取れるが、窓枠で切り取られた外部の風景に見とれたり、様々に色づいた陽の光などに癒やされたり- 窓には通風や採光などの他に、人間の感性に働きかける作用があると思われる。そこで本研究は、インテリア空間に対していかなる寸法の窓がそうした人間の感性モデルに強く連関しているのかを調べ、設計技術にフィードバックすることを目的としている。住空間においては、そこでの作業の質や効率の向上を目指すのではなく、むしろ「いかに効果的な休息を提供できるのか」や「いかにして蓄積されたストレスや疲労を効率よく解消させられるのか」といった逆の性能が求められるべきであり、従来の空間評価概念では扱われていない住空間本来の特性としての「休息効果」に着眼し、ごく客観的な被験者の生理状態の実験測定を基にした評価基準を策定することが必要とされる。 また近年のライフスタイルの変化に対応した良好な住環境を提供すべく、住宅の外的環境との接し方、特に窓や開口・スリット等を用いた自然光の採光方法に関し、特異な形状・仕様、形態の実験的な住宅設計事例が多く見られるようになったが、これらの特異な採光方法と住空間の性能を客観的に評価しうる基準整備が急務である。よって本研究は、住空間の「休息効果」に関わる性能を、空間の疲労回復性能と呼び、各種の生理計測手法を駆使することによってその定量化を試みる。
「テレナーシング」できる高齢者住宅の立地与件を知る
「3世代同居が当たり前」だったのは昔の話。現代社会では「核家族化」「都市部人口の集中」などを背景に、親世帯・小世帯の別居が多くなっている。お互い健康なうちはよいが、自分の親や親夫婦が高齢になるにつれ、日常的な見守りだけでなく、ちょっとした介助・介護などが必要になる時、離れて暮らしていると心もとないうえ、子世帯にとっては会いに行く時間も手間も増える。本研究は、そうした別居の介護「テレナーシング」を無理なく継続しうる物理的な距離を、「時間と費用」の観点から理想値を見出そうというものである。
また昨今利便性が向上したネットワーク通信型IoT機器などのスマートデバイスを介助に併用することで、この「時間と費用」をどれだけ減らせるかを、関西圏・関東圏の被験者回答から導き出し、両圏域の比較も同時に行った。(尚この研究テーマは、文部科学省科学研究基盤研究(C)(2017-2019 年度、研究代表者:高柳英明) に採択されたものである。
関連論文:Hideaki Takayanagi, Tatsuto Kihara, Yosuke Kurita, Kazuhide Kawaguchi, Hidetoshi Kawaguchi, Takaaki Furukawa, Takuhi Ono and Shougo Yamada, A Fundamental Study on Multi-agent Pedestrian Model Based on Risk Avoidance Behavior during Road Blackage and Evacuation Simulation of Regional Urban Disaster、Journal of Civil Engineering and Architecture, Volume13(#137), No.4, pp.219-237, Apl.2019,Doi:10.17265/1934-7359/2019.04.001
(Online Paper_1) (Online Paper_2)
ハムストリングを鍛え、腰痛を防止するバスタブのデザイン
住宅の浴槽や衛生陶器は、使い勝手や合理性を考え抜かれた工業製品であるが、毎日の入浴の時間を健康維持に活かせないかと考えた学生が、ハムストリング(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)を効果的に鍛錬できるバスタブのモックアップを自ら制作し、その効果測定を「DSPワイヤレス筋電センサ」と「筋電値計測システム」を用いて検証した。
下肢筋肉量は、20代後半から加齢と共に減少するため、若年のうちからこうした鍛錬が必要と考える。また入浴時間は通常、15分程度と短いが、この短時間であっても上記筋組織を効果的に鍛えることで、腰痛や全身筋力の低下などを未然に防ぐことができる。
「スキップフロア」形式は住空間として機能するのか
連接した居室空間をゆるやかに繋ぐ、或いは分節する手法として床面段差を利用したスキップフロアという計画様式がある。これがもたらす視覚的・動線的な連続性と不連続性については、体験者の印象や空間認知特性として定量化する研究事例があるが、対人距離や対話などによるコミュニケーション度合いをリサーチし、その有用性の検証に至っている事例はない。そこで本研究は、段差のある居室即ちスキップフロアのある連接空間を対象とし、被験者の対人位置・距離とバーバル(対話型)およびノンバーバル(非対話型)コミュニケーション伝達度合いについて、段差パターンごとの実測値をもとにその有用性を検証することを目的とする。
「インテリアBIM」のすすめ
BIMとは、"Building Information Modeling"の略語であり、建築設計・建設施工管理業務で主として以前のCADと同様なツールとして使われているが、CADと似ていてCADではない。簡単に言うと柱や梁、壁といった3Dモデルに「材質・仕様・工程上の注意書き」などの属性情報を付与しながら効率化されたワークフローを実現する、いわばデザイン作業者にとっての「働き方改革」ツールでもある。本研究ではそれを「インテリア・デザイン」に特化させ、商業空間の店舗デザイン時に「収納量概算」や「造作納まりベース」「人間行動と動線計画」の検討を容易にする方法を示した。
デザイン科学セミナー「メディアミクス2.0」
SNS、ネット通販、電子広告、AR ゲーム、BIM による空間デザイン、テキストマイニング etc...、現代の都市生活は、多種多様な情報通信・ 解析技術・ビッグデータ活用技術よって質の高いサービスを享受するに至り、またこれらの個々の技術水準は飛躍的に進化し続けている。しかし一方で、個別に発展を遂げるこれらの技術を「複合させ」「相乗させ」「創発させる」新たな知恵と工夫に窮しているとも言える。そこで本セミナーでは、建築、インテリアデザイン、空間情報学、電子広告サービス、情報コンサルティング、解析技術の各分野の専門家を招聘し、新たな都市生活の「価値」と「質」を創造するモデルスキーム「メディアミクスと空間デザインのみらい像」について議論を交わした。
街路樹の植え方から「風の道」をデザインする
昨今の地球温暖化対策や環境負荷軽減に加え、東日本大震災をはじめとする天災発生下での異常時・非常時における省エネルギー消費を目指した技術的取り組みが各分野から行われている。省エネルギー社会の実現に対して、夏季の日中における電力消費量の低減が須要的かつ効果的な課題であり、市民の都市生活レベルでは困難な巨視的かつ面的な対策において地理的特性・自然資本を利活用した環境共生型の都市・建築計画が求められている。
本研究では、滋賀県大津市都心地域を対象とした風環境シミュレーションを通じ、夏季の利風効果を有する「風の道」創造に向けた街路樹の植樹デザインにおける風環境の検証を行うことを目的とする。